必ずしも全てのギタリストが編曲に頼る訳ではないが、今日までムソルグスキーの作品は編曲という「魔の手」からのがれてきた。しかし、彼のピアノ組曲「展覧会の絵」の山下和仁による非常に優れたギターへの編曲が昨晩アムステルダムで初演され、山下和仁は「コンセルトヘボウ小ホール」での彼の最初のリサイタルをこの曲でしめくくった。
厳密に言えば、このような多くの可能性と、しばしば長く持続する音を持ったピアノのための典型的な作品をギターの様な爪弾く楽器のために編曲することはきわめて困難である。何か重要なものが失われるに違いないし、また部分的に困難を極めるところもある。しかし、山下は何度となく驚異的ともいえる提示を行い、「こびと」や「ビドロ」にみられるように、時には、はっとするような提示を行なって、独創的で幻想的な数多くの解答を見いだした。
この編曲は、演奏者山下にとっても離れ業が要求されるものである。しかし、11才から数多くのコンクールに優勝してきた弱冠19才のこの日本人には限界がない。彼はギターをやるために生まれてきたようだ。彼は今やギターとは切り離すことのできないきずなを作っている。
彼の自然に備わったテクニックは素晴らしい。しかし、もっと素晴らしいものは、ほとんど信じられないような、ささやきに至るまで、やさしく包みこむような豊かなメロディーを持ち、豊かなニュアンスを魔術のように作り上げて行く柔軟な右手で語られる彼の天性の資質である。
今や既にきわめて高い水準にあるこのギタリストの魅惑的な演奏は、時として若さによる感情の高まりやほとばしりに引きずられることがないわけではないが、終始聴衆を引き付けて離さない。
私にとってのクライマックスはバッハのリュートのための組曲ト短調であった。それは明るくてインテリジェントな方法によるフレーズが全ての声部でオープンに流れていた。全てのギター愛好家たちは聴くべきだ。彼は明日もまた演奏する。