ディ・ヴェルト (ドイツ) 1985年 9月26日 (日本語訳)

メットマンで開かれたギター大会での山下和仁。ギター奏者のスター。

他のギター奏者が山下の演奏を聞くと、今まで八分音符や符点四分音符、クレッシェンド、指の爪や親指の肉について、また演奏や編曲、曲に対する裏切りや誠実さ等について、論争していたのがおさまってしまう。ギター奏者は数多くないのに論争好きなのである。それ由、平和に演奏するために、ギター奏者にとり、新しい弦の神の出現は必要であったのである。

 そこで今度、山下が本当にドイツに来て、初めてのリサイタルを行なう。9月27日には、毎年恒例のメットマンでのギターの大会でスターになるであろう。24歳の若さの山下和仁は、長崎出身のギターの天才なのである。

 1978年に、フエルナンド・ソルとベンジャミン・ブリテンの曲を日本で演奏して以来(RCA RCD-8、他その後のレコードもTISから購入できる)、この若い優れた演奏家は、常に何かをやっているのである。3、4年後に、彼は、ムソルグスキーの「展覧会の絵」を演奏し、それは不朽の名演となり、またそれをもって、ドイツで彼は名を知られるようになりギター版もポピュラーになった。このムソルグスキー以来、山下は、あらゆる音楽を演奏し、演奏家として活躍する一方、難解な曲をギターのために編曲し、編曲者としても活躍した。和仁は、技術的に可能な、あらゆる限界を文字通り爆破してしまったのである。

 アジアの演奏家が、ヨーロッパの音楽を演奏するとき、導入力と「魂」と正しい表現力が欠けている、と言われているが、この異例の芸術家の場合には、この偏見はあてはまらない。この偏見は、多分、中国のイザック・シュテルンにあてはまるかもしれないし、また、日本のある一部のジャズ演奏家にあてはまるかもしれない。しかし、山下和仁にはあてはまらないのである。日本のこのギター奏者は、実験好きである。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲Op.61をギターの為に編曲し、新日本フイルと一緒に1982年5月(RCA RCL8324)に録音したのは、かなり奇抜な大胆な企てであるが、それに対し、ヨーロッパのクラシックギター奏者は、ただ軽蔑的に頭を振るだけ、と思った人は思い違いをしたようである。ヨーロッパでは、ベートーヴェンの音楽に対し、敬意を欠く反面それを完全に演奏するという両面を混ぜ合わせて演奏することができる人はいないし、またそのような大胆きわまりない事を試みる人もいない。しかしまた、ここでは、この曲への裏切り行為を口に出す人もいない。ベートーヴェンは、健全に存在していたのである。

 ギタリストの和仁の演奏は、ムソルグスキーとベートーベンの曲だけ素晴らしいのではなく、8~9枚ある彼のレコードからもわかるように、他の作曲家の曲も素晴しいのである。「展覧会の絵」(UDシュタイン・ムジーク RL 14203)と同じ年に山下は、モンボウ、マネン、タレガの曲を演奏し(RCA RCL8301)、またベートーヴェンから一年後の1983年、彼は再び「新しい」ことを試みた。つまり、ドボルザークの「新世界より」からラルゴを、リストのハンガリアンラプソデイーを、サンサーンスの「白鳥」とパガニーニの「カプリチョ24」(RCA RCL8370)等を演奏する試みである。さらに同じ年に、彼は(ギターオリジナル曲として)トゥリーナ、レノックス・バークリー、ポンセ、トロバの曲をも録音した(RCA RCL8379)。さらに1984年には、アセンシオの「内なる想い」、ヴィニアスの「独創的幻想曲」、ポンセの「スペインのフオリアによる変奏曲」を、聴く人に息をもつかせない程の素晴らしい演奏のレコードを作り上げた。(RCA RCL8398)。そして、1984年の9月に、ジャズギタリストでクラシックに傾倒しているラリーコリエルと一緒にスタジオで、ビバルデイの「四季」をデュオで録音した。結果として、日本の小さいが優れた日本人に軍杯が上がり、山下は、クラシックの船がブルースで満たされたアメリカの河川に沈むのを防いだのである。つまり、ラリーコリエルの演奏により、ブルースになりがちな四季をクラシックにとどめたのであった。(RCA RJL8102)。

そして、最新の彼のニュースは、最近、ストラビンスキーの「火の鳥」を録音しそれは信じられない程素晴しい演奏であった。と伝えられている。

 そのような勇気、そのような力、そしてまた、そのような信じられない程リラックスした演奏は、今まで非常に難解な曲の演奏にはなかった事である。山下が演奏すると、彼のギターは力強く激しく、オーケストラのように響き渡る。彼の指は、本当に魔女が踊っているようであり、今までだれもギターに予測していなかった音をその指はギターから取り出すのである。これはまさに、尺八と琴の国から来たギターの革命である。                       

―アレキサンダー・シュミッツ著―

Translate »